参加を決めるまでの経緯
大学で作業療法を学ぶ中で海外支援への関心が高まり、プロジェクトアブロードへの参加を考えるようになった。
学生でも専門分野に関わる経験ができ、事前に目的を整理できるディプロマコースがあること、さらに単独参加でも安心できるサポート体制が整っていたことが、参加を決めた大きな理由である。
さらに、国際ボランティア・ディプロマコースを進める中で、リハビリだけでなく医療全体や職種間連携を理解したい思いが強まり、スタッフに相談して医療と作業療法のプロジェクトに参加することにした。
また、セブ島を選んだのは、中学生の頃に訪れた際、姉妹校の裕福な同世代との交流と、スラム街で暮らす子どもたちとの触れ合いを通して対照的な生活環境を目の当たりにし、その印象が強く残っていたためである。
そして今回は、そのときの印象を、医療を学ぶ立場からもう一度考えてみたいと思った。
渡航前に抱えていた不安一方で、渡航前には大きな不安もあった。
2025年9月30日にセブ島北部沖でマグニチュード6.9の地震が発生し、日本の報道は直後の情報に偏っていたため、その後の状況が分かりにくかった。
視覚的な情報も乏しく、スタッフに安全面やインフラ状況を確認しても、現地の様子が見えない不安は残った。
さらに、出発前日のホームステイ先の変更が地震の影響ではないかと感じたことも不安を強めた。
そのため最初の渡航予定は延期したものの、ディプロマコースで活動目的が明確になっていたこと、そして大学のスケジュール上この時期しか参加できないと判断し、渡航先を変えず参加を決意した。
現地で見た医療と生活の実情
出発当日は遅延が重なり到着が深夜になったが、日本から現地スタッフと事前に何度も連絡を取っていたため、この点の不安はなかった。
ボゴシティに着くと、約4ヶ月前の地震の影響はまだ残っており、病院では割れたガラス扉や床・壁の剥離が見られた。
町にもひび割れた建物や補修中の家屋があり、著名な方が亡くなったという話や、家を失いテントで生活する人々の存在も耳にした。
しかし、日本の大規模地震のように町全体が壊滅的という印象ではなく、報道では分からなかった“現地の実際の姿”を自分の目で確かめることができた。
こうした地震の影響が残る環境の中で、私は実際に医療現場に入り、現地の医療体制や患者の様子を自分の目で確かめることになった。
病院での活動と学び
セブ島ではボゴシティの病院とサンレミジオのリハビリセンターで活動した。
病院では手術、帝王切開、通常分娩を何度も見学し、医療従事者の判断や動きを間近で観察できた。
帝王切開では胎児の状態によって頭から出る場合も足から出る場合もあり、同じ手術でも患者の状態や医師の判断で進行が異なることを実感した。
また、生まれたばかりの赤ちゃんを抱かせてもらった際には命の温かさを感じ、「医療に関わる」という意味を強く意識した。
一方で、赤ちゃんがすぐに泣かない場面もあり、一瞬戸惑いを覚えると同時に、正常・異常の判断は単純ではなく、状況に応じた観察が必要だと気づかされた。
知識だけでは捉えきれない現実に触れ、自分が持っていた“当たり前”が揺さぶられる経験だった。
さらに、現地の看護学生の実習に参加し、指導者の管理のもとで器具の受け渡しや臍帯切断などを経験した。
その範囲で現場に関わることで、医療チームの中で自分の役割と責任を理解する重要性を学んだ。
検査室・救急外来での学び
また、検査室では血液検査の一部を担当し、血液を試薬と混ぜて遠心分離機にかける工程を経験した。
作業を正確にこなしていると評価され、「プロみたいだ」と褒めてもらい、大きな自信につながった。
一方、救急外来では患者の症状を英語で記録する業務に携わった。
患者はセブ語で話し、看護師が英語に通訳し、私が書き取る流れだったが、記録自体は難しくない一方で、細かなニュアンスを十分に汲み取れていない可能性を感じ、医療における言語の壁を実感した。
また、現地ではデング熱が流行し、特に子どもがかかりやすいと聞いていたが、私が救急外来にいた時間帯に来院した子どもは1人だけで、症状も別のものだった。
病棟では咳の患者が多く、地域の健康課題は“ニュースで聞く代表的な病気”だけではなく、実際には呼吸器症状など身近な問題が多いことに気づかされた。
さらに、銃を持った警官に見守られながら囚人の血圧を測定する場面もあり緊張したが、どのような背景の人にも平等に医療が提供されるべきだと強く感じた。
こうした経験を通して、作業療法を専攻する学生として、日本の授業や実習では得られない学びが多く、異なる医療環境や医療職種を理解する上で非常に有意義な時間となった。
リハビリテーションセンターでの活動:作業療法の視点
一方、リハビリテーションセンターには作業療法士がおらず、限られた設備の中で理学療法が中心に行われていた。
先生との会話から、フィリピンでは理学療法士が多く、作業療法士は少ないこと、作業療法の概念は理解されていても現場で十分に実践されていないことを知った。
また、日本の作業療法について多くの質問を受け、学生ながら祖父の介護やリハビリで感じたこと、実習で学んだ内容をできる限り説明した。
生活に寄り添う作業療法の考え方に興味を持って聞いてくれたことが印象的だった。
そのうえで「作業療法の視点から何かできることはあるか」と尋ねられ、日本から持参した折り紙を提案したところ、リハビリの一環として採用された。
患者さんは麻痺で手が動かしにくくても一生懸命に取り組み、見本と違っていても「できた」と喜び、達成感を示してくれた。
その姿に理学療法士の先生たちも感心し、作業療法の可能性に興味を持ってもらえたことが嬉しかった。
この経験を通して、「作業」が持つ意味と力を改めて実感した。
生活環境の違いから得た気づき
さらに、生活面でも多くの学びがあった。
乾季にもかかわらず激しいスコールが続き、「Red Rainfall Warning(最大級の大雨警報)」が発令されたこともあった。
豪雨で家を失った人も多いと聞き、自然災害が生活に与える影響の大きさを実感した。
また、水シャワーや洗濯機のない生活、便座のないトイレ、湿度の高さなど、日本との違いに戸惑う場面も多かった。
2週間を過ぎる頃には温かいシャワーや湯船が恋しくなり、日本の生活環境のありがたさを痛感した。
今回は「現地で生活すること」も目的の一つだったため、日本から持参したカップラーメンにも手をつけず、できる限り現地と同じ環境で過ごすよう心がけた。
特に印象的だったのは虫の多さである。
クモやアリ、ミミズ、ゴキブリが日常的に現れ、クモは無害と分かっていても日本より大きく、アリは小さいのに何度も噛まれ、夜中に虫が出て眠れなくなることもあり、虫が苦手な自分には大きなストレスだった。
虫だけは最後まで慣れることができなかった。
通勤にはトライシクルを利用した。
1人でも向こうからも声もかけてくれるのですぐに乗れ、不当な料金を請求されることもなかった。
車体に登録番号が表示されており、トラブル時に対応できる仕組みがあると知り、安心して利用できた。
また、ホストファミリーは平日の活動後に町を案内してくれたり、週末にはセブシティへれて行ってくれたりと、さまざまな場所に連れて行ってくれた。
親せきや友人たちと一緒にピックルボールを楽しむ機会もあり、家族のつながりや地域の温かさを肌で感じることができた。
これらの経験を通して、生活環境の違いが人々の価値観や行動、健康にも大きく影響することを実感した。
広がった行動範囲と地域理解
そのような生活を続ける中で、2週間ほど過ごすうちに生活のリズムがつかめてきて、「ほかの地域も見てみたい」という思いが自然と芽生えた。
そこで週末には一人でフェリーに乗ってバンタヤン島へ行ったり、セブ島最北端のダーンバンタヤンを訪れたりして、少しずつ行動範囲を広げていった。
さらに、活動終了後には約10日間セブシティに滞在し、地域ごとの生活環境の違いを自分の目で確かめた。
フィリピンは7,641の島から成り、そのうち約2,000の島に人が住んでいるとされる。
自分が見たのはそのほんの一部に過ぎず、国の多様性の広さを改めて実感した。
この経験から得たもの
今回の活動を通して最も学んだのは、「自分の当たり前を疑う視点」と「多角的に物事を捉える力」である。
宗教や文化、日常の小さな違いまで心に残ることが多く、この体験談では書ききれないほどの経験が詰まっていた。
例えば、ベトナムやカンボジアでも箸を使う文化だと知っていたため、フィリピンでも同じだと思い込んでいたが、実際にはスプーンとフォーク、そして手で食べることが主流であることを初めて知った。
事前に調べていたつもりでも、自分の“当たり前”が通用しない場面に何度も出会い、そのたびに新しい視点を得ることができた。
また、ボランティアとして参加したものの、実際には自分が学び、考え、成長する時間の方が大きかったと感じている。
一人での参加だったからこそ、一つひとつの経験に深く向き合うことができ、多くの機会に恵まれた。
今後は、この経験を大学での学びにつなげ、将来は作業療法士として誰かの力になりたいという思いが、以前よりもはっきりと自分の中に芽生えた。
最後に、この貴重な経験を支えてくださったプロジェクトアブロードの皆様、現地の医療関係者の方々、そして温かく迎えてくださったホストファミリーをはじめとするフィリピンの皆様に、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
この体験談は、主観に基づいて綴られています。
その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。
ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。
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