社会人5年目の出会い

私が、海外に目を向け始めたのは小学生の頃でした。

メディアを通して知る国外の世界は、沢山の幸福に満ち溢れると同時に、戦争や貧困、暴力や差別等、心痛む現実もありました。

その中で知った、国境を越えて人々の力となり働く日本人女性の姿は、勇敢であり尊敬できる存在でした。

その姿は、人の力になることに国境は関係無く、自分にも力となれる可能性があることを教えてくれました。

「いつか海外を舞台に」

そんな志を抱き、専門職を身に着け、経験を磨いていた社会人5年目の時、その専門職を活かして、同じ志を持つ世界中の人達と活動できる場があることを知り、これがプロジェクトアブロードとの最初の出会いとなりました。

申込みまでの2年間

「人の力になる」ということは、「情熱だけでは叶わず、継続的な支援と問題解決できる技術や知識の存在が不可欠」と言う考えをいつも心に持つようにしていました。

その為、プロジェクトアブロードのプログラムを知ってから、更に専門知識と、語学力向上の為に時間を費やし、出会ってから2年後にプロジェクトへの申込みを決意しました。

プロジェクトアブロードに決意した理由は、私の目指す専門職のインターンシッププログラムがあった事と、世界中から同じ志を抱いた参加者が集まるという魅力が決め手でした。

世界を舞台に働く時、日本人として育ち培ってきた常識や価値観に囚われず、多様な意見や考えを柔軟に受け入れ行動できる事が求められます。

日本人だけでなく世界中からの参加者が多いこのプログラムでは、専門知識を世界的視野で思考することができ、更に自分の考えの尺度を広げる良い環境が整っていると思いました。

まさかの迷い

パンフレットを読み込み、またオンライン説明会にも参加してみましたが、具体的な活動の様子を詳しく知りたかった為、個別相談をお願いしました。

いざ決断となると、優柔不断の私はこれで後悔しないか、もっと自分にあったプログラムがあるのではないか等、迷う事も多くありました。

自分の第一希望のプログラムやそれ以外の候補、希望の国や、自分の語学レベルにあった内容等を踏まえ、徹底的にスタッフの方に相談に乗ってもらいました。

初めの漠然としたイメージが、色んな角度から情報を提供していただき、専門的なアドバイスとその明確さ、そして粘り強く私の疑問や不安に、納得するまで丁寧に対応してくださったスタッフの方のお陰で、自分の後悔しない選択ができました。

申込み手続きを済ませてから、出発まで約1か月半と短時間の準備期間となりましたが、プロジェクトアブロード専用のマイページにある手順を参考に予防接種などを済ませ、滞り無く出発までの準備を行いました。

栄養管理活動~その①~

近年フィジーでは、糖尿病・高血圧・肥満症などの生活習慣病に罹患している人の増加が顕著で、大きな健康問題となっています。

重大なのは病気が進行し、腎症や網膜症、下肢壊死、心臓病などの深刻な合併症に繋がり、まだまだ医療水準の低いフィジーでは十分な治療が行えず、世界的に見てもその死亡率が高くあることです。

現地でのプログラム内容は、主に地域住民に対する健康診断の実施と、食生活改善プランや栄養知識の提供、栄養指導、エクササイズ指導です。

他にも、幼稚園や小学校を訪れて、アクティビティの一環として、エクササイズ指導の授業や、食に関する保健衛生指導なども行いました。

栄養管理を行う対象者は、病院が近くに無い町外れの村の住民や、ホテル・空港会社に勤める労働者など、企業からの要望や、その必要性に応じて現地スタッフが選定します。

約3ヶ月毎に新しいコミュニティへ対象を移行し、より多くの人が栄養管理を受けられる様にアプローチしていました。

フィジーでは、国民が病院へ行く機会があまりなく、自宅に体重計が無い家庭が殆どの為、自分の健康状態を知る人が非常に少なく、病気や健康に対する意識が全体的に低い印象を受けました。

栄養管理プログラムは、会社や村に訪れ、健康診断を行う機会を設けることで、自分の身体の現状を知ってもらい、生活改善に繋げる為の動機付けとなっていました。

最初に、身長、体重、ウエスト・ヒップ比(WHR)、体脂肪率、体格指数(BMI)、血圧、血糖値を測定し、基準値との比較を行い、次に家族の病歴や飲酒、喫煙、内服薬、更に食生活、運動習慣の聞き取りを行います。

全ての結果を踏まえ、対象者の健康に対する知識や意識レベルに合わせて栄養指導を実施し、事務所に戻った後、パソコンでカルテ作成を行いました。

カルテは個人の再評価や、集積したデータをグラフ化して集団指導時に使用しました。

多いときは、1日100人以上の対象者へ実施することもあり、その時のボランティア人数に合わせて大規模な栄養管理も行われました。

エクササイズ指導としては、ダンスとエアロビクスを合わせた「ズンバ」という運動を、曜日毎に決めた場所(会社やホテル等)へ出向き、30~40分程度のズンバ教室を開催し、職場に勤める方や、地域住民の方々に楽しく体を動かす方法や、その重要性を伝えました。

ズンバの振り付けは、一人1曲ずつ担当する様に課題を与えられ、私はルームメイトの子と一緒に二人で2曲を考え、自宅の庭で共に何度も練習しました。

栄養管理活動~その②~

プログラムの中心は、栄養管理とエクササイズ指導でしたが、その他にも、週に1回メンバー同士の知識交換会が設けられ、自分が共有したい栄養に関する知識を、メンバーにプレゼンテーションを行う日がありました。

それぞれ、自分の国の特徴を生かした栄養知識についての発表が多かった為、私も病院で働いていた経験を生かし、「日本の高齢化社会に応じた病院の多様な嚥下食について」をプレゼンテーションし、メンバーであるイタリア医師の方が私のプレゼンテーションのデータが欲しいと興味を持って下さる等、自国の医療事情を発表できる良い機会となりました。

幼稚園や障害者学校、小学校にも出向き、授業する機会には、毎度出張前に、どんな授業を行うかをメンバー全員で相談し、準備を行いました。

私は日本から個包装の歯ブラシを沢山持参した為、それを使って授業したいと提案した所、皆の賛同を得られ、「食後の歯磨きの大切さ」をテーマに幼稚園児に授業を行うことができました。

面白かった授業は、手に付いた雑菌(バクテリア)を小麦粉で表現し、子ども達へ「手洗いの大切さ」を伝えた事でした。

集中力の短い幼稚園児へ、いかに興味を持たせて内容を伝えられるかをみんなで工夫した結果、子ども達が参加できる授業を行うことで、大成功を収めることが出来ました。

私が現地で得た学び

一つ目は、多様な価値観を柔軟に受け入れる事の大切さです。

例えば、栄養学として学んだ知識は皆同じでも、国によって違う単位を使用する為に、日本基準で覚えていた数値を換算し直す必要があり、またアジア人やポリネシアン人など人種によって、遺伝子や体格が異なる為に比較すべき基準値が違う等、自分が当然一つだと思っていた答えがそうでは無く、何度も覆されました。

その度に、自分の価値観に捕らわれ続けず、素直に受け入れることで、新たな知識の幅を広げる良い学習の機会となったと思います。

二つ目は、自分の考えをしっかりと持って積極的に発信していく事の重要性でした。

私が活動した時のメンバーは、全員が違う国籍からの参加で、各々の形で栄養学に携わっていましたが、社会人や大学生、医師や看護師など、年齢や立場も様々で、持っている栄養知識も違いました。

その為、日々の課題にチームで協力して取り組む時、一人ひとりがアイデアの提案や意見を出すことが、非常に重要であり求められました。

皆が発言することで、知識の交換やお互いの異なる考えを知る大切な機会となり、更にチーム一丸となってプログラムを行うことができたと思います。

私は最初聞き手に回る事が多かったのですが、黙っていては、決して自分の意見は受け入れられない為、自信が無くても積極的に発言することで、様々な可能性を開くことができました。

国の食文化の違いや、宗教・信仰の有無に寄って同じ栄養学でも考え方が180度違うこともあり、栄養学の奥の深さを学びました。

ホストファミリーとのフィジー生活

フィジーの家庭は、インド系とポリネシアン系が多く、私はポリネシアン系のご家族の元で御世話になりました。

家族構成は、大人2人と子どもが5人の大家族で、ホームステイのお部屋は家族の家隣に別宅があり、そこで3人のボランティアと共同で過ごしました。

当初は不安な気持ちが大きかったですが、ご家族みんなオープンな性格で、喜怒哀楽を隠さず接してくれたため、自分の気持ちも伝えやすく本当の家族の様に、毎日を過ごすことができ、今では人生の大切な思い出となっています。

私はこれまで、大家族の中で過ごした経験が無かったので、毎日の生活がとても興味深く、自分の部屋で過ごすよりも家族宅で過ごす時間の方がとても多かったです。

家事が特技という事もあり、毎日夕飯支度や買い物を手伝い、食後は散歩して星を眺めるなど、家族と過ごす時間が本当に楽しかったです。

ルームメイトはイギリス出身の教育プログラム参加の子と、オランダ出身で同じ栄養管理プログラム参加の子で、一日中寝食・生活を共にしていたので、まるで姉妹の様に仲を深めることができ、毎日の帰宅後も一緒に出掛けたり、休日は旅行を楽しんだりしました。

嬉しい思い出が沢山できましたが、家族の一人の年齢の近い女の子とは親友の様に仲良くなり、休日に彼女の故郷へ招待され伝統行事に参加させてもらうなど、とても貴重な体験もすることがきました。

人生を変える経験

私にとって、苦しい事も楽しい事も、どの一瞬もとても貴重な経験となり、全てを含めて今回の選択が正解だったと思います。

日本で過ごす生活はとても充実して、不自由の少ない環境の為に便利で居心地が良いですが、慣れ親しんだ母国を離れて生活することで、言葉や文化・習慣・食事・規則など生活環境のあらゆる違いの壁を越えて、困難へ挑戦することができるので、自分の殻を破れる素晴らしい機会だと感じます。

そして、世界中の人達とボランティアを通して様々なプログラムに取り組むことができ、相手を理解する力や一つの答えに縛られない寛容な思考力を育てることができたと思います。

5週間あっという間でしたが、内容が濃く、人生を変える貴重で素晴らしい経験となりました。

ここで学んだ経験を糧に、今後も目標に向かって努力していきたいと思います。

この場をお借りして、プロジェクトアブロードの御世話になったスタッフの方々に心より感謝を申し上げます。

本当に、かけがえのない思い出を作って下さり有難うございました。

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フィジーで栄養管理 ちひろ

この体験談は、主観に基づいて綴られています。

その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。

ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。