海外の医療現場を見てみたい
私は普段、整形外科医師として総合病院で勤務しております。
以前から海外留学やボランティア活動に興味があり、今回は仕事の都合がつく3週間で医療現場を見学できる留学先を探しておりました。
一般に、日本と同様に医師として医療現場で働くとなると、その国の医師免許取得や高い語学レベルなどが要求される場合がほとんどで、短期留学の場合は見学メインでの参加となるケースが多いです。
そのような中で、プロジェクトアブロードの医療プログラムについてお話を伺い、日本の医師免許を生かして活動ができる国としてカンボジアをご提案いただきました。
現地スタッフからの信頼や中級レベルの英語力が前提となるものの、積極的に参加すれば海外で医療行為をできる機会が得られることに魅力を感じ、プログラムへの参加を決めました。
異なる環境でしか得られない学び
カンボジアでの勤務先は、クメールソビエト友好病院というプノンペン市内にある公立病院でした。
外傷外科と脳神経外科が一つとなった病棟での研修だったので、私は外傷外科を選択して毎日たくさんの外傷手術に参加させていただきました。
外傷外科は5チームに分かれており、各チームが5日ごとに24時間の当直体制をとっていました。
フランスへの留学経験のある整形外科専門医が各チームのリーダーとして指導し、若手医師がほとんどの手術を執刀できる環境でした。
日本でも指導医が専攻医に指導する形で診療・手術技術を習得するため、この点は同じようなシステムです。
研修先の病院では同世代の医師が多く、患者さんに向き合う態度や治療への情熱、高い語学力や学びに対する姿勢にとても刺激を受けました。
カンボジアでは歴史的な背景から、医師はフランス語(または英語)で医学を勉強しています。
カルテや手術記録はすべてフランス語ですが、現地の医師は私と一緒にいる時には英語で話してくださり、術中の判断や術式選択について議論をすることができました。
病棟回診や外来診療の際には、医師がクメール語を翻訳してくださったので、患者さんの訴えを聞いたり診察したりすることも可能でした。
カンボジアでは医療保険の仕組みにより、すべての患者さんに対して同じように診療をすることはできず、お金がなくて検査や手術が受けられない患者さんに対して、なにもできない無力さを感じる日もありました。
私は3週間でできるだけ多くの症例を勉強したかったので、平日は毎日朝8時~夜7時過ぎまで勤務しました。
計40件の手術で助手を務め、数件執刀させていただく機会にも恵まれました。
現地の手術器械は非常に限られていて、インプラントが足りないために別の術式を選択したり、手に入るもので代用したりする場面が多いことに驚きました。
異なる環境での手術は時に難しく、現地の医師に助けてもらう場面が多くありました。
普段、日本で当たり前の環境として、充実した設備や使いやすいインプラントに頼って手術をしていることを痛感しました。
現地での執刀経験は少し苦い記憶となった一方で、日本が構築した医療システムの素晴らしさを改めて認識できました。
また、カンボジアには女性の整形外科医がいないため、私が手術をしていると医学生や看護師さんたちがたくさん見学にきました。
動力を含む器械が限られているカンボジアでは、整形外科手術で医師の筋力が必要となる場面が日本よりも多く、女性医師が整形外科手術を行う物理的な難しさも感じました。
それでも、周りの医師のサポートがあればできないことは何もなかったので、近い将来、カンボジアにも女性整形外科医師が誕生することを願っています。
驚きと思い出が詰まったカンボジア生活
3週間の滞在期間中には、現地の医師以外ともたくさんの出会いがありました。
滞在したアパートでは、フランスの大学生5名と一緒に生活をしました。
病院で読めなかったフランス語を翻訳してもらったり、一緒にバーへ飲みに行ったり、楽しく共同生活ができました。
現地でアパートの大家さんたちから声をかけられて、そのまま駐車場でダンスパーティーになった夜もありました。
毎日3食の食事は、バラエティー豊かな現地の味付けで、いつも幸せな気持ちになるほど美味しかったです。
トイレ・シャワーは、滞在していたアパートのものは綺麗でしたが、病院や公共施設では衛生的とは言えず、日本人の感覚からすると驚き、困惑することもありました。
週末には他のボランティアとみんなでアンコールワットのサンライズツアーに参加しました。
病院勤務の日常から離れて、とても良い息抜きになりました。
病院の先生方からおすすめの観光スポットを聞いて、同い年の脳神経外科の女医さんにプノンペン市内を案内してもらったことも良い思い出です。
現地の先生方と何度か飲みに行く機会もあり、杯を交わして再会を約束しました。
医師としての使命が明確になった
今回私は、世界における日本の医療の立ち位置を俯瞰して見てみたいと思い、カンボジアでの研修を行いました。
3週間の研修を終えて、日本の医療のきめ細やかさに気がつき、日本で医療に携わる者として、より質の高い医療を実現できるように努力することが自分の使命であると実感するに至りました。
私自身、医師としてはまだまだ未熟でこれからさらなる研鑽を積んでいく立場です。
日本でも、女性医師の働き方については課題の残る論点であり、女性としてのライフワークバランスを保ちながら、将来どのような専門性を身につけ、外科医として働き続けることができるのか、先が見えない怖さもあります。
そのような悩みの中で、カンボジアで優秀な医師たちと出会い、患者さんに対する治療方針を語り合った経験は、自分が医師となった時に描いていた、患者さんを助けたいという原点に立ち返る一つのきっかけとなりました。
カンボジアでいつも温かくサポートしてくださった先生方、スタッフの皆様には心から感謝の気持ちでいっぱいです。
未知の世界で挑戦した小さな一歩は、今後の大きな糧になると確信しています。
この体験談は、主観に基づいて綴られています。
その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。
ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。